ロ包 ロ孝
「それは願ったり叶ったりっすよ! 実は俺。公務員試験、難しくって断念したんです」

 目を輝かせて栗原は身体を乗り出してくる。

「でもまだ解らんぞ? 素質がなければ【者】(シャ)は修得出来ない。そこを超えればあとは修練次第なんだがな」

 目を細めて栗原に頷いた里美を見て「優しい笑顔だなぁ」と、俺は話半分で里美に見惚れていた。

「俺、死ぬ気で頑張りますよ、課長!」

 だから素質が無ければ頑張っても無駄だというのにっ!


∴◇∴◇∴◇∴


 あれからひと月。栗原は殆んど会社に顔も出さず、音力に入り浸って修練を続けている。

俺達は久し振りのお泊りだ。

  ヴィーィン ヴィーィン

「あっ、ああっ!」

  ヴィーィン ヴィーィン

 サイドテーブルに置いた携帯が、振動で床に落ちてしまったのだ。だ、断じていかがわしいプレイをしていた訳ではない。


───────


 電話の主は栗原だった。

「あぁもしもし、どうだ? ぉ……お、おお。こっちは大丈夫だ」

『やりましたよ! 坂本課長! 【者】を修得しましたぁっ!』

 携帯を耳から離さなければいけない位の大声だ。その声はいつにも増して明るかった。

「良かったな。【皆】(カイ)迄進めたのか?」

『はい。今修練中っス! 頑張ってます』

 俺と栗原はよく「兄弟みたいだ」と言われていたので、骨格その他が似通っているのが頼みの綱だった。

彼に素質が無かったらどうしようかとも思ったが、何となくうまく行きそうな気はしていたのだ。

「良かったわね、淳。あたしもあの子なら扱いやすいからいいわ?」

 俺の肩に顎をちょこんと乗せて里美が言う。


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