ロ包 ロ孝
 三浦が急ぎ足で帰って来た。

「すいません課長、遅くなりました」

「いやいや、今日の山場はなんとか越えましたし、のんびり行きましょう」

 契約社員という立場になって、今迄には無かった余裕が生まれて来た。

音力からもたらされる報酬が作り出す金銭的余裕というよりも、仕事に対する愛情にも似た気持ちがそうさせているようだ。

「じゅーんっ! あ、坂本さんっ」

 ここに里美が顔を出すのは久し振りだ。

「どうした。そっちの居心地はどうだ? 山崎課長」

 里美も異動の際、いきなり課長に昇進していた。俺と同じように欠勤を代行がサポートするというシステムを取る為、常に最前線に身を置いていなければならない主任を飛び越える必要が有ったらしい。

里美は充分その責務に値する仕事をして来たし、何も俺に遠慮する事は無いのだが、本人はいつも気にしているのだ。

「ちょっとぉ! その課長ってのはやめなさいよぉ!」

「俺や栗原君に迄内緒にしてコソコソ暗躍するんだからな、お前は!」

 俺のポストは自分の力で得た物では無い気がして、どうも座り心地が悪いのだ。それでつい、言外に含みの有る物言いをしてしまう。

「これでも……一応上司を立てて、行動したつもりなんですけど?」

 里美はくるりと背中を向ける。

 あ。ヤバイ、怒ってる。言い過ぎた。

里美が俺に気を遣ってくれている事は重々解っている。実際里美が配属されたのは、うちの課よりもかなりランクが下位のお荷物的な部署だった。

「ごめんごめん。でも課長と呼ばれて気に留める事なんて無いぞ? お前はそれだけの実績を上げて来たんだから」

 あわててフォローをしたが、向こうを向いているので里美の表情は窺えない。


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