ロ包 ロ孝
そこは何かの会場というより、録音スタジオ然としていた。
丸い小さな穴が規則的に開いた板で出来ている壁。がっちりと密閉される、大きなレバー付きの厚い扉。二重窓の中に見える狭い部屋に、数人の男女が大口を開けて発声練習のような事をしている。
一番手前に居る恰幅のいい男性が、俺と里美に気付いて中の人達を制した。こちらに向き直ると、ドアを開けて入って来いという身振り。
俺達は促されるままレバーを引いた。
ガチャッ
重々しくロックが外れると、部屋の中から密度の濃い空気が流れ出して来る。
「一体何が始まるんだ?」
用意されていたパイプ椅子に腰掛けながら里美に尋ねる。
「いいからいいから。今日は見学だけしてって。帰りにちゃんと説明するから」
すると先程のリーダーらしき男性が会釈をしながら話し掛けて来た。
「坂本さんですね? 山崎さんからお話は伺いました。私は城北地区のブロックリーダーで、岩沢と申します」
彼の声は低く、しかしハッキリとしていて、何とも言えない優しさに溢れた声だった。
「当サークルは最近流行の『自己啓発セミナー』のような物です。のんびりと見学して行って下さい」
顔の大きさに比べると、かなり小振りな眼鏡の位置を忙しなく直しながら話す岩沢。その彼を見ている里美の横顔が、俺の視界に入ってきた。ふとそちらへ顔を向けると、その自然な微笑みをたたえた表情に、思わずドキッとさせられた。
「……ねぇ。ホラ、ねぇってばぁ!」
ああ、なんだ?
「……ですよね? 坂本さん」
俺は岩沢の問い掛けに全く気付かなかった。
「あたしに見とれてたのは解るけど、折角岩沢さんがお話して下さってるんだからちゃんと聞いといてよ」
こそこそと耳打ちする里美を睨み返すが、半ば図星なだけに迫力には欠けているだろう。