ロ包 ロ孝
「ああ、こちらこそサトッチ。お久し振りです」

 誰だこいつは! サトッチだなんて馴れ々れしい!

俺は射るような目で男を見ていた。

「ああ、申し遅れました。初めまして、音力の北田です。お見知り置きを」

 なるほど、こいつが北田か! 小柄でコロコロして熊のぬいぐるみみたいだ。しかも『ホモ』だって!

俺は込み上げてくる笑いを抑えるのに必死だった。

「で、北ちゃん。今日はどうしたの?」

 里美が訪ねる。

「ああ、この度わたくし北田は、術が実際に使われた時の記録を収集する係になりました。なので暫らくはちょくちょくお会いするかと思います。しかしこの係、1人じゃあまり意味も無いと思うんですがね。道具と言ってもホラ、このパソコンとデジカメと巻き尺位の物ですよ? 術の破壊力を測定するセンサーも、一部始終を記録するビデオカメラもなくて、一体何を収集しろと言うんでしょう。まぁ大々的に調査をする訳にも行きませんから、少数精鋭という事で僕が選抜されたんでしょうけど、人選的には間違いじゃありませんね。はっははは」

 ……ははぁ、これは聞きしにまさるお喋り男だ。お喋りというより愚痴なのか、次々と余計な事を口に出す。これでよく政府の工作員が勤まるな。

里美が「ほらね?」といった顔でこちらを見ている。

「今日は瞬く間に終わります。話してる時間が勿体ない位ですよ?」

 俺は暗に喋り過ぎを戒めた。

「ああ、そうですか。では早速行きましょう。一緒に付いて行ってもいいですかね? 邪魔にならないようにするには、僕はどこに居たらいいでしょうか。ああ、そもそも何の能力も無い僕が現場に立ち合う事こそ無謀ですよね。音力は僕にどうしろって言うんでしょう……」

 だからぁ、黙っていろというのにっ!


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