ロ包 ロ孝
 俺は今、【前】(ゼン)を放ちたい気持ちを抑えるのに必死である。

「北田さん、貴方とではなく私は、警察側の現場担当者と話をしたいんですが……」

「ああすいません、こちらです坂本さん。報道管制もしっかり引いてありますから、ご存分にどうぞ」

 そこはさすがに本職らしく、俺達の到着前に手配を済ませていたらしい。後は担当者にこちらの意向を伝えるだけになっていた。

「どうも、坂本です。シミュレーションでは10分有れば片が付くようになっています。我々が降りてから突入して下さい」

「たった10分で、ですか?」

 狐につままれたような顔をしている現場担当をよそに、俺達は階段を上がった。

「坂本さん。シミュレーションって何なんスか?」

 栗原が声を殺して聞いてくる。

「あれは口からの出任せだよ。でもなんとなくそれらしかっただろ?」

 バーでのいざこざの時と状況はさして変わらない。5分でも充分過ぎる位だ。

「とと、ところで。俺は何をすればいいんすかね」

 栗原はかなり緊張した面持ちで、額にうっすらと汗すら浮かべている。咄嗟に余計な事をされても困るから、ここはひとつ小粋なジョークでも飛ばしておくか。

「栗原君は今回何もしなくていい。しかし万が一……」

「万が一、なんすか?」

「俺のファン達が殺到したら、適当に食い止めといてくれ」

「ププッ。芸能人じゃ有るまいし、そんな事有る訳無いじゃないっすか!」

「だから万が一、と言ったんだ」

 それが小粋だったかどうかは別として、やっと肩の力が抜けたようで栗原は笑った。

さあ、いよいよ初オペレーションの始まりだ。作戦は階段を昇っている間に打ち合わせる。


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