ロ包 ロ孝
「里美と人質が入れ替わって、犯人の気が逸れている間に俺が【在】でナイフを奪う」

「そしてあたしがやっちゃうのね?」

「そうだ。それで行こう」

 現場の消費者金融は、入り口のドアが開け放たれていて中が丸見えだ。犯人らしき人物は女性を盾にして奥に座っている。彼女に回された手にはナイフが握られていて、その先は喉ぶえに突き付けられていた。

残りの人質4人は左の壁際に立たされた上テープで後ろ手に巻かれ、口も塞がれている。

見た所共犯が居る気配は無いし、膠着状態が続いていたお蔭で犯人は気を抜いているようにも見える。これは好都合だ。声を潜めて俺は言った。

「行け」

 軽く頷いた里美はツカツカと現場へ入っていき、犯人に問い掛ける。

「すいませ〜ん。人質を交換して頂けませんかぁ?」

 おいおい、そんな能天気な入り方があるか!

「なんだお前はいきなり。一体なんのつもりだ!」

 案の定、犯人がまた態度を硬化させ立ち上がった。

「そちらの女性は内蔵に病気を抱えているんです。私が代わりになりますから、離してあげて下さ〜い」

 さすが里美だ。なるほどそういう設定にしたのか。

そう言われて女性は最初少し戸惑っていたが、こちらの意図が通じたのだろう、具合の悪そうな演技を始めた。

「そ、そうなのか?」

「は……い」

 いいぞ? その調子だ。

犯人も根っからの悪人ではないらしい。上手く行きそうだ。

「じゃ、じゃあお前。こ、こっちに来い」

「はぁ〜い。優しくしてね?」

 あくまで能天気な態度は崩さず、里美は犯人の懐にしずしずといだかれる。奴は彼女に手を回すと、その胸の大きさに気付いたようだ。


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