ロ包 ロ孝
 まんざらでもなさそうな犯人。口元がだらしなく緩んで、笑みがこぼれている。警戒心の欠片も無い表情だ。

それはまさに作戦通りなのだが、俺は複雑な気持ちに襲われている。そして予定では暫らく様子を見ているつもりだったが、余りにニヤけている奴に腹が立ち、とうとう俺は辛抱が出来なくなった。

「畜生、貴様。里美から手を離せ! ヒョォォォオ」

 俺は物陰から全力で【在】(ザイ)を放つ。里美が傍に居る事で注意力散漫となった犯人には、思いのほか術が効いた。

  グキグキ パキッ

 鈍い音と共にあらぬ方向へ手首がねじ曲がってしまったのである。

「ああーっなんだ? ぐあっ、手が、手がぁっ!」

 堪らず犯人はナイフを落として里美は自由の身になった。するとすかさず犯人の方に向き直って、打撃の【皆】(カイ)を放つ。

「痛いけどごめんなさい。ダッ、ダッ、ダダッ」

「はうっ、ぐっ、ウォわっ!」

 犯人は木の葉のように舞い、もんどり打って床に倒れ込んだ。

「う、ううぅぅぅん」

 グロッキー寸前の犯人。

「次はもうちょっと痛いわよぉ? 貴方にナイフで脅されていた彼女の分ね? ダッ!」

  ズドバッ!

「ぅぐぇえっ!」

 重量感の有る音を発して犯人の腹にめり込んだ【皆】は、腹を押さえて丸まった姿勢のまま、奴を床の上で滑らせる。

  ズサァァァッ ドスン!

 犯人は背中から壁に当たると、それっきり動かなくなった。現場内に安堵の溜め息が漏れる。

「フフ、監禁されてた皆さんの分も含めて、ちょっと強めにやっちゃった」

 里美はペロッと舌を出し肩をすくめた。

「お陰で俺もスッとしたよ」

 彼女がやっていなかったら、その分俺が懲らしめてやろうと思っていた所だ。


< 114 / 403 >

この作品をシェア

pagetop