ロ包 ロ孝
 俺は短く叫んでエレベーターホールに降り立つ。普段の雰囲気とは明らかに異なったそこは、漂う空気さえも違う物に感じられた。

これはどういう事だろう。床に張られたカーペットのシミひとつをとってみても妙に馴染めない。

背中をひと筋、嫌な汗が伝って下りる。俺は拳を顎に当て、1人考えを巡らせていた。

「!」

 するといきなり背後から肩を掴まれた。一体何が起きているんだ?


───────


「あら淳、おはよう。どうかしたの?」

「里美!」

 どうやら俺は、間違えて低層階行きのエレベーターに乗ってしまったらしい。

「おはよう。いや、お前の顔が見たくてね」

「またまたそんなお上手言ってぇ、ただ間違えただけなんじゃないの?」

 お前は超能力者か! それが術なら俺にも伝授してくれ。

  キンコーン

 丁度昇りのエレベーターが来た。助かった!

「照れるなよ! じゃあな」

 捨て台詞のように言うと、俺は乗り込んで17階のボタンを押した。


───────


「おはようございます」

「おはよう」

 そうそう、この少し男臭い感じが俺の職場だよ。

 余計な考え事をしていると色々とやらかすものだが、エレベーターを間違えたのは勤続10年にして初めての事だった。

「おはようございます。何だか楽しそうですね。お店の方でいい事でも?」

「ああ、三浦さん。おはようございます。……別にそういう訳ではないんですけどネ」

 楽しいというよりも寧ろ、照れるというかバツが悪いというか……恐らく目一杯の苦笑いをしていたと思うが……。

三浦がこの部に来てから半月以上になる。悪い男では無いのだが、何故かこの男とはウマが合わない。


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