ロ包 ロ孝
「そろそろいい歳だし、少しは大人の味も嗜まないとさ」

「ははは、何言ってんの。ディープとライトが有るけど、どっちがいい?」

「んじゃ、ライトで」

 彼に歩み寄る気などは更々無かったが、今日はなんとなくコーヒーを注文したかったのだ。

暫くして、芳しく匂い立つコーヒーカップが供された。

「はい、お待ちどお」

 まずはブラックで啜ってみる。

「ああなるほど。これは旨い」

 濃過ぎず、豆の薫りが立っていて酸味を押さえたその味は、喉ごしも爽やかでさっぱりとした物だった。

「隣、よろしいですか?」

 そう言いながら三浦が持って来たトレイには、少し汗をかいたコーラのグラスが乗っている。

俺達は顔を見合わせて笑った。


∴◇∴◇∴◇∴


「ねぇ聞いてよ聞いてよぉ!」

 栗原に教えて貰ったカラオケ屋『ヴァシーラ』

3人で料理に舌鼓を打ちながらミーティングだ。

「いや、ほんと旨いな。ほら里美も喰ってみろって!」

 俺は牛のタタキを堪能していた。

「アタシは話を聞いて欲しいの! 聞いてってばぁ」

 里美はすっかり出来上がっている。空きっ腹に飲むからだ。

「栗原っ、ちょっとこっち来なさい!」

 彼は頭をかかえられ、胸にぐりぐり押し付けられている。

「ぅにゃ〜ん」

 彼の細めた目は糸のようになっている。

 幸せそうだな、栗原。

始めの内は嫉妬で胸が焦がされるようだった俺も、今ではこれがすっかり日常となってしまっていた。自分で言うのもなんだが、俺の適応力もなかなか大した物だ。

「根岸さんが居なかったから北田にスーツの話をしたのよ。そしたらアイツ何て言ったと思う?
『そんな邪魔な肉を付けてるからいけないんでしょ?』って抜かしたのよ?」


< 126 / 403 >

この作品をシェア

pagetop