ロ包 ロ孝
程無くして、席を外していた他のメンバー達が戻って来た。
「では早速始めましょう。坂本さんも真似して発声してみて下さい」
岩沢はみんなの方に向き直ると
「【第二声】(ダイニセイ)から始めますよ? いや、坂本さんもいらっしゃるので【第一声】からにしますか。……はいっ。むぅうううん」
音頭を取り、発声練習が始まった。ここではこれを修練と呼ぶらしい。
「むぅうううん」
───────
暫らく皆に混じって発声をしている最中、俺に向けられている視線にふと気が付いた。
「あれ? お前っ、垣貫じゃないかっ?」
俺は考えるより早く視線の主に声を掛けていた。その大声に周りの視線が集められたのを気付きもせずに……。
「俺だよ! 高倉だよ。懐かしいなぁ……あ、親が離婚したから、今は母親の姓を名乗ってるんだけど……」
一瞬懐かしそうに微笑んだ彼だったが、岩沢の方を見やって目くばせする。岩沢は苦笑いを浮かべ、目をシバシバさせながら言った。
「いや、はは。垣貫さんとはお知り合いでしたか、それは偶然ですネ。お話なさいますか?」
「いえ、後にします。中断させてしまって申し訳ありません」
「そうですか? では続けます。みなさんも坂本さん位、大きな声でお願いしますよ?」
どうやらまたやってしまったようだ。
俺は咄嗟の感情や衝動みたいな物を抑えられない性格のようで、自分自身困っている。普段話す声は普通なのだが、こういう時に上げる声がまた、特別大きいらしい。
中学時代には「高倉(旧姓)の叫びでガラスがビリビリ震えた」との逸話も残っている位だ。