ロ包 ロ孝
「すすす、すいません。以後気を付けます。すいません……ホントに」

 栗原は顔面蒼白になって縮こまり、ションボリと肩を落としている。

「でも、その正義感は大切だ。これからは冷静且つ的確な判断で対処すればいいんだ。な? 栗原」

 俺は彼の肩を揺すって諭すように言い聞かせた。

「坂本さん……」

 段々と血色を取り戻した栗原は、潤んだ目で俺に呼び掛ける。

「どうした」

「いや、初めて呼び捨てで呼んで貰えたから……」

 俺は部下でも後輩でも必ず敬称を付けて話すのだが、栗原にはそれが他人行儀に聞こえていたのだそうだ。

「これでやっと身内として認めて貰えた気がして……俺、凄く嬉しいっす。本当に」

 遂には更にうっすらと、涙まで浮かべている。そんなに呼び捨てがいいのだろうか。

俺は仕事上で関係する者同士の礼儀として、これまで敢えて皆に敬称を付けて来たのだが、逆もまた真ということなのか。

「勿論君は俺の身内だよ。改めてこれからも宜しく頼むな、栗原」

 俺は彼の肩に置いた手に、力を込めて抱きかかえた。

「はいっ! 頑張ります!」

 そして栗原は少し照れ臭そうに言う。

「でもぉ、坂本さぁん。なんだか俺も、坂本さんの子猫ちゃんになっちゃいそうですぅ……」

 しなだれ掛かろうとする栗原との間に割って入り、

「なによ栗原! 淳は渡さないんだからね!」

 と、間髪入れずに里美が突っ込む。

「やだなぁ、冗談ですよぉ、山崎さん。ハハハハ」

「そりゃそうね、あはははは」

 みんなで笑ったが、北田の例も有る事だし、絶対に無いと断言は出来ない。

これが冗談であってくれて良かった、本当に良かった。


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