ロ包 ロ孝
そのあとは修練終了迄、皆と一緒になって発声の訓練をした。
「どうも大変お世話になりました。それと……」
それから俺は修練を中断させてしまったお詫びを長々と、ついには岩沢が恐縮してしまうまで続けた。
「イヤ本当に、どうかお気になさらないで下さい。それより、是非またいらして下さいね?」
∴◇∴◇∴◇∴
「岩沢さん。歓迎してくれてた……んだよな」
元はと言えば『ただの興味本位』で覗いただけの筈が、何故かスッカリ通う気満々の俺が居た。
「そうよ! また来てくれって言ってたじゃない」
「そっか。そうだよな」
垣貫が思い出し笑いをしながら言う。
「アハハッ。しかしあのバカでかい声は健在だったな、懐かしいよ。でもお前のスーツ姿は想像もしなかったなぁ」
あの後なんとか事無きを得て、俺達は垣貫が良く利用するという喫茶店で話をしている。
「昔は馬鹿やってたしな。俺だってサラリーマンになるなんて、考えもしていなかったさ」
その当時、俺は普通に見られるのが嫌で、敢えて奇抜なファッションを好んで着ていた。
美術や音楽に傾倒し、将来はミュージシャンかイラストレーターになっている筈だったのに……。
「しっかしこんな所で会えるなんて思ってもみなかったよ! 淳(ジュン)に良く似た男だけど苗字も違うし、『他人の空似』だろうと……」
「はは、こんないい顔が他に居る訳無いだろう! しかし垣貫の格好はどう見てもバリバリのビジネスマンだな。そうなる事は大方予想してたけど」
「……あのぉ、お2人はいつ頃のお知り合いなんですか?」
里美が口を挟んできた。
「山崎。人の話の腰を折るなよ」
「いいじゃないか、淳。我々は中学の同級生です」
里美は目を輝かせている。昔の俺に興味津々らしい。