ロ包 ロ孝
 ここは都内のとある警察署内。古内警部補が「暴行された」と訴えて来た女性の対応に当たっている。

「本来ここは取り調べ室なんですが、生憎他の部屋は使用中でして……散らかっていて申し訳有りません」

 例の『姿無き通り魔事件』発生から早ひと月半が経っていたが、犯人の目星さえ付いていない。犯行は依然として増すばかり。

警察は「威信に関わる」という事で挙動不審な人物を片っ端から尋問している所だ。

怒号とタバコの煙で溢れ返った署内を忙しく人が行き交っていて、ありとあらゆる小部屋は今、総取り調べ室状態になっていた。

「あっ! すいません」

 古内警部補は山積みになっていた資料や被害者の写真等を片付けようとして、手を滑らせた。顔写真がバラバラと床に散らばる。

「私も拾います」

「どうも。あの『通り魔事件』のお陰で、署内はてんやわんやなんですよ。騒がしくてすいません」

「てんや……ですか?」

「ああ、表現が古かったですかね。ヒッチャカメッチャカです」

 古内警部補は慌てて訂正したが、たいして変わっていない。

「あっ! ああ〜っ!」

 すると突然、女性が拾い上げた写真を見て叫んだ。

「こいつです。私の胸とかお尻とか触ったのは!」

「その方は通り魔事件の被害者ですよ? ほら、この資料にも有るように、○月Х日午前0時30分頃、渋谷区内の路上で通り魔に遭われたんです」

 古内警部補は資料を見せながら言った。

「それ、通り魔じゃ有りませんよ。その人は私を助けてくれたんです!」

「この方がですか?」

 写真を見せながら聞く古内警部補へ、喰って掛からんばかりに女性は言った。


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