ロ包 ロ孝
「わぁっ、淳なんて呼んじゃうんですか? ねぇあたしも呼んでいい?」
「山崎。あまり調子に乗るなよ?」
里美を睨み付けながら言うと、俺を押し退けて垣貫が割って入って来る。
「こいつひどいヤツですよね。そう、淳は昔からこんな具合で硬派ぶってたんですよ。レディの扱いが全くなってない!」
「ああ、ナンパ師のお前とは正反対だったな。山崎もコイツには気を付けろ?」
垣貫は俺の言った事など意に介さず、矢継ぎ早にたたみ掛ける。
「あそこに入会した時から『まるで名画のように美しい人が居るな』と気になっていたんですよ。山崎さん、貴女が居るだけで平凡な風景も素晴らしい名作になる」
ナンパ師垣貫の十八番『誉め殺し』だ。これでもかこれでもかと打ち寄せる美辞麗句に、始めの内は取り合わない女性もいつしか舞い上がり、気分が良くなって……ついにはその身を投げ出してしまう。
これが里美に通じなければいいのだが……。
「有り難うございます。でもあたしは、坂本さん以外とお付き合いするつもりは有りませんから!」
何っ?
ヤツの気持ちは知っていたが、実際言葉にされてしまうとかなり照れ臭い。言った里美自身、柄にも無く真っ赤になって俯いていた。
「あれあれぇ? お2人さん、尋常じゃ有りませんね。おお熱い暑い!」
ネクタイを弛め、手をウチワのようにパタパタさせる垣貫。
「お、お前。それ古いから」
そう照れ隠しに言ってはみたものの、俺は里美に連られて顔から火が出そうな勢いで赤面していた。
───────
そのあと散々垣貫にからかわれたが、懐かしい昔話にも花が咲き、楽しい時間を過ごす事が出来た。
「それで……やってみるのか? 俺も体調が思わしくなくて始めたんだが、近頃じゃこの通り。元気ハツラツだぜ?」
垣貫は力こぶを作って誇示して見せる。
「そうか、お前が言うなら間違いは無いかも知れんな。なにせ昔から研究熱心な男だったし……」
「そうよ。効果の程はあたしを見てれば解るでしょ?」
里美が口を挟むが確かにそうだ。俺は「まあ暫らく通ってみるさ」と再会を約束し、垣貫と別れた。