ロ包 ロ孝
『もしもし、根岸です。お電話宜しいですか?』

「ええ、大丈夫です」

 やはり根岸だったが、仕事の話ではなかった。

『今、古内警部補が見えているのですが……どうやらあの通り魔事件。栗原さんの仕業らしいのです』

「ええっ? なんですって?」

 調査の結果を重ね合わせると、暴漢や強盗等から市民を守る為に、栗原は術を使ったのだろうという事だ。

つまり通り魔事件の被害者達は、実の所はみな加害者だったのだ。

『どうも、古内です。お電話かわりました。一両日中には裏を取りますが、まず九分通り間違いないでしょう』

 里美は黙って俺の手のひらを撫でている。

「そうですか。でもこれは罪になるのではないですか?」

『何とかして被害届けを取り下げさせます。それが無理でも打つ手は沢山有りますから』

 古内警部補。敵には回したく無い相手だ。

『根岸です。ひとつ問題が有りまして……栗原さんを音力の査問委員会に掛けなければならないのです』

 殺傷許可が出ていない案件で死人を出した事。術を任務以外で使用した事。メディアに載る事に依り、秘密が外に漏れる危険を生じさせた事。事情も無く連絡を断って、秘密裏に行動していた事。

以上の4点で審議されるそうだ。

『内規に依って、栗原さんの意見は参考程度に聴取する物とされています。
 私もその決定は覆す事が出来ませんのでご了承下さい』

 どんな決定が下されるのかは窺い知れないが、政府の裏機関が一個人を裁くのだ。無事で居られる保証は無い。

「それじゃ審議と言うより『裁定が下りる』といった感じですね」

 根岸に嫌味を言っても通じないのは解っていたが、俺はそう言わずにはおれなかった。


< 150 / 403 >

この作品をシェア

pagetop