ロ包 ロ孝
 さて肝心のサークルは、その名称を【音力】(ネヂカラ)という。

設立当初は【波動共振研究所】だったらしいが、余りに胡散臭い響きだったので改名したんだとか。

今日の体験で俺も【第二声】迄やってみたが、なるほどあれは普通の発声とは異なる。例えて言えばモンゴル民族の歌唱法である【ホーメイ(ホーミイ)】のような物だろうか。口腔内を巧みに操り、倍音を響かせる発声だ。

岩沢の話に依ればそれには10の段階が有り、彼自身も【第七声】迄しか修得していないと言っていた。

「そう言えば山崎、お前は第何声迄出来るんだ?」

 駅迄の道すがら、里美と歩いていた俺はそう尋ねた。

「だからぁ『さとみ』って呼んで!」

 少し頬を膨らませてしなを作って言う。正式に付き合ってもいないのに、女を名前で呼べる訳がない。

「解ったよ。で、何声迄?」

「……んもうっ! 【第四声】よ。【一声】は只の声。【二声】は口腔共鳴発声。坂本さんがやったのはここ迄ね。
 そして【三声】が口腔、腹腔、各部の骨を共鳴させる、細胞活性共鳴発声」

「なるほど……でも岩沢さんの話からすると、細胞の活性化が最終目的なんじゃないのか?」

「それが違うのよ。まぁその内解ると思うけど……」

「それでお前のやっている【四声】は何なんだ?」

 バイタリティーに溢れる人物形成の為にあるサークルならば、【三声】迄で事足りる筈だ。

里美は慎重に言葉を選びながら話を続けた。

「まだサークルに入ってない人に言ったら本当はイケナイんだけど……。
 【四声】は遠隔到達共鳴発声よ」

 なんだそりゃ、遠隔到達? あ……もしかして……。

腕組みして考え出した俺に『そうよ。あれは空耳でも気の所為でも無かったの』いつしか姿が見えなくなった里美の声が頭の中に響く。


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