ロ包 ロ孝
 そう、この不思議な感じだ。

会議の最中言葉に詰まった時。クライアントに厳しく詰め寄られた時。他にも何度か里美の声に助けられた。

「こうやって坂本さんに助言したわよね。これが【第四声】なの」

 相変わらず声だけが聞こえている。いや聞こえるというより寧ろ『頭の中に湧いてくる』感じだ。耳から入ってくる音ではなく、脳そのものが震えているような感覚だった。

「……て、もう解ったから出て来いよ!」

 いつまでも姿を現わさない里美を探してきょろきょろ辺りを見回すと

「こーぉこよぉー!」

 遥か遠くの歩道橋で手を振っていた。あんな大声を出すから、周りの通行人から注目を浴びている。里美はそそくさと階段を駆け下り、ヒールの音を高らかに響かせながら見事な迄の『女走り』を見せる。

「はぁ、はあっ。それでね……」

 息も絶え絶えに里美が続ける。

「詳しくは知らないんだけど、【第三声】以降【第九声】迄はみんな細胞を活性化する発声らしいの。
 だから岩沢さんはあんな言い方をしたんだと思うわ?」

 そうか。しかし10番目は何故活性されないのだろうか。もしかすると身体に悪影響が出る発声なのか?

 まさか死んだりしないだろうな。

敢えてそれには触れないで、無難な所だけ聞いておく。

「【五声】【六声】はどんな事が出来るんだ?」

「あたしは今【第五声】を練習中だから【五声】の事は解るけど……
 練習段階にならないと詳しい事は教えて貰えないし、その段階に無い人に内容を教えてはいけない事になってるの」

 それにしては随分べらべらと喋るじゃないか。

嘲笑的な俺の眼差しに気付いたのか、里美は言う。

「いや、坂本さんは特別だから話してるのよ? ……で、実はね。
 あたし、その先も知ってるの」


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