ロ包 ロ孝
「凄ぉーい。お屋敷じゃない!」

 俺と里美は父の実家である高倉家本家に来ている。

安土桃山時代から続くこの家系は城を構える迄ではないが、町民としては考えられない程の財力を誇っていた。

何故なら町民というのはあくまでも表向きで、戦国時代には数々の武勲を挙げた『忍びの者』の家系だったからだ。

 それにしても懐かしい空気だ。子供の頃は夏休み冬休みになると、必ずここに来て過ごしていたっけ。

「もう15年は来てないな。いきなりだから俺って解るだろうか……ごめんくださあい」

 開けっ放しの門を入り中庭を抜け、玄関から声を掛けてみる。チャイムも何も無いのは昔のままだ。

「淳です。お久し振りでえす。誰か居ませんかぁ?」

 ゴトゴトと奥の方で物音がした。祖父母はもう、とっくに亡くなっているだろうし、まだ結婚していない(であろう)良子叔母さんか?

「誰じゃ!」

 見た目はよぼよぼで小さいが、野太くしっかりとした声の祖父がのそのそと顔を出す。

「爺ちゃん? 俺だよ! 淳だよぉ!」

「お? 淳だと? 何っ? ……おおっ、淳か!」

 驚きと喜びの表情をしているのだろうが、伸び放題の真っ白な髭と眉に隠れて良く見えない。

「えらく久し振りじゃのぉ! いくつになった」

「35だよ。爺ちゃんまだ生きてたんだ!」

「何を言う! まだまだ死ねんわい! ……暫らく前に卆寿の祝いをしたから、100年近くは生きたかのぉ。
 ……で、こちらのべっぴんさんは?」

「里美です。坂本さんにはいつもお世話になってます」

 美人と言われた事を謙遜するでもなく、満面の笑みで里美が答えた。


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