ロ包 ロ孝
 良く里美と通った道を三浦と連れ立って歩いている。2人とも無言だが気まずい雰囲気ではない。それに彼の足取りは軽く、何故かウキウキしているようにも見える。

「楽しそうですね。余程いい事が有ったみたいだ」

 俺がそう言うと三浦は嬉々として振り返った。

「もうここ迄来ればいいでしょう、実は課長……私もエージェントとしての登用が決まったんですよ」

 え? 素質が無くて術を修得出来ないクチではなかったか。

「私は生来の音痴で、発声も音程もまるで駄目だったんですが、一か八かボイストレーニングに通いまして、それがいい結果に繋がったという訳なんです」

 なる程その手が有ったか。ご先祖様が蠢声操躯法を興した頃にはボイストレーニングなんて物は無かった。素質がなければ諦めるのが当然だったのだ。

「少し前、山崎さんに代わるエージェントの手配を根岸さんに依頼なさった事が有りましたよね。※ 番外編『奉公』参照
 実を言うとあの時、私も現場に行く筈だったんですよ」

 確かに、里美がどうしてもオペレーションから外れたいと言うので、根岸に代わりのエージェントを頼んだ事は有った。でも三浦が来る予定だったというのは全くの初耳だ。彼がエージェントになったなんて、そんな重要事項を俺に隠しておくとは!

 だから音力は信用出来ないんだ!

「根岸さん、俺にはナ〜ンにも言ってませんでしたよ? 凄く嫌な感じですね!」

 精一杯訝しげな顔をしているであろう俺の言葉を、三浦は慌てて否定した。

「いや、違うんです。課長をびっくりさせようと思って、私が内緒にしてくれと頼んだんですよ。
 根岸さんもあれで案外ノリがいいので、すぐ聞き入れてくれましたよ?」


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