ロ包 ロ孝
 済まなそうに祖父は言うが、それは確かにそうだ。両親が離婚をした時、俺は母に付いていった。その時から既に俺は高倉の一族では無くなったのだから。

「そうか、そうだよな……。じゃあ自分なりに研究してみるよ。……爺ちゃん。達者でな」

 折角面白い事になりそうだったのに……。

俺の中で高まり、張り詰めていた何かが、プツンと音を立てて切れた。

「山崎……」

「はい」

「帰るぞ」

「ええっ? いいのっ? 巻物はそこに有るのよ? もう一度お願いしたら? 折角来たんだし」

 里美は俺の事を気遣って思いとどまるように言ってくれているが、代々伝わって来たその決まり事に祖父が背くとは思えない。

「こんな所迄付き合って貰ったのに悪かった。でも一族の掟には逆らえないさ、帰ろう」

 そう言って俺が家を出て行こうとすると祖父が言った。

「冗談じゃ」

「へ?」

「だから冗談じゃと言ったんじゃ」

 昔からこの爺さんはこうなのだ。いつも真面目な声で冗談を言うから、ちっとも笑えやしない。

「なんだよ爺ちゃん! じゃあ教えてくれるのか?」

「高倉の姓を名乗っていなくとも、淳はワシの大切な孫じゃしの。それに秘術中の秘術である【前】(ゼン)は奴らも知り得まいて」

 さも得意気に胸を張る祖父。表情は髭と頭髪に隠れて見えないが、その声は今にも笑い出してしまいそうな程に明るかった。

「どうして?」

「後で教えてやるわい。『慌てる日本書紀は貰いが少ない』って言うじゃろ」

「爺ちゃん……それを言うなら古事記だろう」

「フォッフォッ。まぁ兎に角『百聞は一見にしかず』じゃ。早速見に行こう」


< 22 / 403 >

この作品をシェア

pagetop