ロ包 ロ孝
済まなそうに祖父は言うが、それは確かにそうだ。両親が離婚をした時、俺は母に付いていった。その時から既に俺は高倉の一族では無くなったのだから。
「そうか、そうだよな……。じゃあ自分なりに研究してみるよ。……爺ちゃん。達者でな」
折角面白い事になりそうだったのに……。
俺の中で高まり、張り詰めていた何かが、プツンと音を立てて切れた。
「山崎……」
「はい」
「帰るぞ」
「ええっ? いいのっ? 巻物はそこに有るのよ? もう一度お願いしたら? 折角来たんだし」
里美は俺の事を気遣って思いとどまるように言ってくれているが、代々伝わって来たその決まり事に祖父が背くとは思えない。
「こんな所迄付き合って貰ったのに悪かった。でも一族の掟には逆らえないさ、帰ろう」
そう言って俺が家を出て行こうとすると祖父が言った。
「冗談じゃ」
「へ?」
「だから冗談じゃと言ったんじゃ」
昔からこの爺さんはこうなのだ。いつも真面目な声で冗談を言うから、ちっとも笑えやしない。
「なんだよ爺ちゃん! じゃあ教えてくれるのか?」
「高倉の姓を名乗っていなくとも、淳はワシの大切な孫じゃしの。それに秘術中の秘術である【前】(ゼン)は奴らも知り得まいて」
さも得意気に胸を張る祖父。表情は髭と頭髪に隠れて見えないが、その声は今にも笑い出してしまいそうな程に明るかった。
「どうして?」
「後で教えてやるわい。『慌てる日本書紀は貰いが少ない』って言うじゃろ」
「爺ちゃん……それを言うなら古事記だろう」
「フォッフォッ。まぁ兎に角『百聞は一見にしかず』じゃ。早速見に行こう」
「そうか、そうだよな……。じゃあ自分なりに研究してみるよ。……爺ちゃん。達者でな」
折角面白い事になりそうだったのに……。
俺の中で高まり、張り詰めていた何かが、プツンと音を立てて切れた。
「山崎……」
「はい」
「帰るぞ」
「ええっ? いいのっ? 巻物はそこに有るのよ? もう一度お願いしたら? 折角来たんだし」
里美は俺の事を気遣って思いとどまるように言ってくれているが、代々伝わって来たその決まり事に祖父が背くとは思えない。
「こんな所迄付き合って貰ったのに悪かった。でも一族の掟には逆らえないさ、帰ろう」
そう言って俺が家を出て行こうとすると祖父が言った。
「冗談じゃ」
「へ?」
「だから冗談じゃと言ったんじゃ」
昔からこの爺さんはこうなのだ。いつも真面目な声で冗談を言うから、ちっとも笑えやしない。
「なんだよ爺ちゃん! じゃあ教えてくれるのか?」
「高倉の姓を名乗っていなくとも、淳はワシの大切な孫じゃしの。それに秘術中の秘術である【前】(ゼン)は奴らも知り得まいて」
さも得意気に胸を張る祖父。表情は髭と頭髪に隠れて見えないが、その声は今にも笑い出してしまいそうな程に明るかった。
「どうして?」
「後で教えてやるわい。『慌てる日本書紀は貰いが少ない』って言うじゃろ」
「爺ちゃん……それを言うなら古事記だろう」
「フォッフォッ。まぁ兎に角『百聞は一見にしかず』じゃ。早速見に行こう」