ロ包 ロ孝
『解りました。そうですね、課長。有り難うございます』

「だからぁ、課長はやめて下さいって言ってるのにっ!」

 まだ会社に居る時の癖が抜け切らない三浦に俺は念を押す。

『ああそうでした。すいません』

「また謝るぅ、お堅いのは無しにしましょうよっ!」

 これからは同じエージェントとして、同胞としてやって行くのだ。新派を興した先駆けとして、三浦にももっと自信を付けてやりたいものだ。

『以後気を付けます。ではまた、パァっと飲みにでも行きましょう!』

「そう来なくちゃ! 面白い店が有るんで、是非今度一緒に! じゃあまた、連絡取り合いましょう」

 三浦との電話を切った俺は、以前ひょんな事から足を運んだ店を思い出していた。※ 番外編『奉公』参照

「ジュリちゃん元気にしてるかなぁ……」

「……淳。ジュリちゃんって誰よ」

「さ、里美。いつからそこに?」

 その時、俺の周りが俄(ニワカ)に薄暗くなった。デスクに座りながら電話をしていた俺の後ろに里美が立ったからだ。

「ちょっと前から居たわよ、それより何? ジュリちゃんって!」

「え? あ? 俺、そんな事言ったか?」

 里美は俺の前に回り込み、鋭い視線で睨んでくる。そういう時の彼女は普段の笑顔とはまた違って、惚れぼれする程美しい。

が、しかし、当然今はそんな悠長に構えている場合じゃない。その表情に込められている『怒り』は、全て俺に向けられている物だからだ。

「確かに言ったわよ? 『ジュリちゃん』って……」

 既に里美は俺から光を遮る場所に居ないにも関わらず、その場の明るさは一向に戻らない。

雷が落ちる前に立ち込める暗雲のように、俺の周りには暗く不穏な空気が渦巻いていた。


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