ロ包 ロ孝
「ああ、『ジュディーちゃん』って言ったんだ。三浦さんチの犬だよ。
 シェビーなんだが、これがまた可愛くってな」

 おお、口から出任せを言った割りには随分と気の利いた台詞が出たぞ?

「ん、明かりが戻ったか?」

「何? 明かりって」

「いや、なんでもないよ。ハハハ……」

 今迄薄暗かった部屋の照明が、また何もなかったように輝き出した。多分里美は、サイコキネシスもテレパシーも使えるエスパーに違いない。

「でもそうだったの。あたしったら、淳が他の女にうつつを抜かしてるんだと勘違いしちゃった。ごめんなさい」

 嘘をつくのが苦手だった俺が精一杯に放った『術』は、どうやら功を為したようである。

「まっさか! 里美よりいい『女』が何処に居るんだよ。他の『女』なんか眼中無いに決まってるじゃないか!」

 そしてこれは断じて嘘ではない。

ジュリちゃんは『女』に見えるがニューハーフ。戸籍上はれっきとした『男』だ。例え万が一、罷(マカ)り間違ってそういう関係になったとしても、それは浮気では無く男同士の濃い〜い友情なのだ。

……等と都合の良い言い訳を頭の中で巡らせながら、窮地を乗り切った安心感にほっと胸を撫で下ろす。

「淳にそう言って貰えて嬉しい! ああ、そうだ。
 三浦さんと言えば、正式にエージェントとして登用が決ったみたいね」

「そうなんだよ、里美。今その報告の電話を丁度受けた所でさ。
 しかし三浦さん。才能が無くて【闘】も修得出来なかったのに、ヴォイストレーニングの学校に自ら通って立て直したんだってさ、凄いよな。それでさ……」

 話題が三浦に移って自分に火の粉が降り掛からないであろう事を確信すると、俺は饒舌になりペラペラと喋り出してしまった。


< 229 / 403 >

この作品をシェア

pagetop