ロ包 ロ孝
「いや実は、舘野さんに知られたくない事が有るんだよ。話せば長い話なんだが……な? 遠藤くん。
 だからあの店は使わなかったのさ」

「どういう事ですか? おい説明しろ、遠藤!」

 渡辺が遠藤に詰め寄るのを諫めて俺は言った。

「まぁまぁ、ほんとに話せば長くなるんだって!
 それに舘野さんにだって蠢声操躯法の秘密は洩らせないんだぞ?」

 俺は両手首を繋がれたゼスチャーをして言う。

「せ、誓約書ですね。そ、そうか」

 困った時の誓約書頼みだが、今回も上手く渡辺達を黙らせた。俺は話題を変えて話を逸らす。

「それはそうと、岡崎君の姿が見えないが……どうしたんだ?」

「え、と、今日は大会が有るって言ってたよな、確か……」

 みんなは顔を見合わせ、かぶりを振った。どうやら知っているのは渡辺だけらしい。

「そうか。みんなの中でまだ【闘】(トウ)を修得出来てない者は?」

 1人も居ない。最初の3分の1はクリアしたか。

「【者】(シャ)はどうだ? 3倍力を修得出来ていない者」

 2人の手が上がったが、彼らは何も問題ないと祖父から言われているそうだ。俺の見立ては当たっていた。

「岡崎君はどうなんだろう、誰か知らないか?」

「そういえばあいつ、【闘】も修得出来て無いんじゃなかったっけ?」

「声の波形が画面に出るやつが有りますよね……」

 オシログラフだ。現在音力では、科学的側面からメンバーをサポートする際の資料として、術者の放つ声の波形や音量等をデータ化している最中である。

科学的裏付けがきちんと為されれば、更に術の修得率も上がるに違いない。

「あれで岡崎の声を見ると、普通入らない雑音が有るみたいなんです。
 なんだか医者に行けって言われてましたけど」


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