ロ包 ロ孝
 岡崎は大学の軽音楽部でV系のバンドをやっている。一度デモCDを聴かせて貰ったが、絞りだすような呻きとも叫びとも言えない所謂『デス声』(デスメタルというジャンルで用いられる、『シャウト』よりも歪ませた発声)がふんだんに盛り込まれた楽曲だった。

そのバンドでヴォーカルを取っている彼の喉には恐らく、かなりの負担が掛かっている筈だ。

「そうか。あくまで推測だか、もしかしたらポリープか何かが出来ているのかも知れんな」

「マジかよ! 癌かよ岡崎、可哀想に」

 その可能性も無くはないが、もしそうだとしてもかなり早期に発見出来ている筈だ。修練よりも何よりも、早く医者に診せてやらなければ。

「医者には達っつぁんも同行してやってくれないか? グループリーダーとしてな」

「自分がリーダーですか! ついでで召集されたメンバーなのに?」

「そんな事、冗談に決まってるだろう!
 みんなも異存無いよな?」

 一同は笑顔で頷き、突然渡辺は泣き出した。

「みんなぁぁ、ありがどぉぉ。自分、頑張りばすぅぅ」

 拍手が巻き起こる中、胸の携帯が震えている。

 何だろう、根岸からだ。

『もしもし、坂本さん。凄いですよ三浦さん達!』

 彼には珍しく、電話の向こうではかなり興奮した声を上げている。

「どうしました? そんなに慌てて」

『スイマセン。お電話平気ですか?』

 俺は渡辺達に目配せすると店を出て、通話を続けた。

「平気ですよ? 今風に当たろうと外へ出た所です」

『実は今回、初オペレーションとしては少し危険だったのですが、麻薬取引の現場へ行って頂いたのです』

 俺達が談笑している間にも犯罪は行われていた。少し胸は痛んだが、三浦の事だ。上手くやってくれただろう。


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