ロ包 ロ孝
「そうなんだよ。課……坂本さんはこういう温かい人なんだ。
 どうしてあいつらは解ってくれないんだろう……」

「いいじゃないですか。
 その内には彼等も、私がエリートじゃなくてタダのおっさんだったと気付きますよ。ははっ」

 彼の肩を叩いて今後の協力を約束し、俺は自宅へと戻った。今日は里美が夕食の支度をして待っている。


───────


「ねぇ淳」

 テーブルに飾られた花を指で突っつきながら微笑む里美。

「ん? どうした?」

「あたし達、思えば色んな事が有ったわね……」

 俺が問い掛けるとそう感慨深げに呟いた。

「ん? ああ。付き合い始めの里美の料理は喰えたもんじゃなかったな」

 彼女は首をもたげて一瞬眉根を寄せるが、また柔和な表情になって回想する。

「栗原もあの事件からめざましく成長したわよねぇ」

「おお、伊万里の茶器を100円ショップで買ったとか言ってたよな、里美は」

「……ちょっと淳、さっきからチャチャばっか入れてナニよ!
 今日が何の日だか解ってるのっ?」

 ん? 国民の祝日じゃないし。里美や俺の誕生日でもない。そう言えば今日に限って食卓が豪華だ。

「男ってホント駄目ねっ! 今日は2人で初めて音力に行った記念日じゃない!」

 そんなの覚えてるかっ!

俺は今後訪れて来るだろう怒涛のアニバーサリーデーラッシュを思い、頭がクラクラした。

しかし……そう言われてみると1年なんてあっという間だ。

俺が今こうして在るのも元はと言えば里美との縁だし、里美と一緒に音力へ訪れなければ我が家系の秘術である蠢声操躯法も、俺とは全く関係無い所で政府のいいように使われていたに違いない。


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