ロ包 ロ孝
「この蔵が崩れるかと思ったわよ。まだ頭の中がキンキンしてる」

 大きな目を白黒させて、耳に手のひらを被せたり外したりしながら、その聞こえを確かめている。

「いや、爺ちゃんが余計な事を言うからさ……ごめん、悪かった」

「そう。何の訓練もしていないのに、淳は小さい頃からこうじゃった。それによく泣く子での。遠くに居ても様子が解ったものじゃ」

 また余計な事を!

今度は声に出さず、身振りで祖父に訴えた。

「おうおう解った解った。そんな怖い顔をするでない。じゃ里美さん、また後でゆっくりとな」

 後でもナニも無い。頼むからそこら辺で勘弁してくれ!

俺は話題を逸らせたくて祖父の尻を叩く。

「もういいから、早く巻物を見せてくれよ!」

「それもそうなんじゃが……」

 どうも祖父の歯切れが悪い。何か不都合でも有るに違いない。

「巻き物や掛け軸を入れておった仕掛け箪笥が有るんじゃが、開け方を忘れてしまっての。ここ何年かは中を覗きも出来んのじゃ」

 やはり!

祖父は100歳近い高齢だ。しっかりしているように見えても、寄る年波には勝てないのだろう。

「悪いが一緒に考えてくれんかの」

 しかし、そんな忍者が使う程のカラクリを、素人の俺達が解ると本気で思っているのだろうか。

「これなんじゃが」

 案内された先に置かれていたのは何のことはない桐の箪笥だ。確かに物は良さそうだが、随分と新しい。

「爺ちゃんボケちまったのか? こんな新しい仕掛け箪笥が有る訳無いだろう!」

「ボケとるとはなんじゃ! それが自分の祖父に向かって吐く言葉かっ!」

 祖父は俺にクルリと背を向けると、床を踏みしめながら倉を出て行ってしまった。

「お爺様、ご立腹みたいね。でも駄目よぉ、あんな言い方したら!」

「だけど山崎。どう見たってこれ、普通の新しい和箪笥じゃないか」


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