ロ包 ロ孝
「ちょっとちょっとちょーっと北ちゃん!」

 喋り続ける北田に堪らず、胸を揺らしながら里美が割り込み、口を挟む。

「貴方ねぇ、根岸さんに取り継ぐ気は有るの? 取り継がないの? どっちよ!」

 丁度都合良く北田と行き会ったので「根岸の所在を知らないか?」と尋ねたのが運の尽き。俺達はすっかり彼のストレス発散の場を提供してしまう事になった。

「ああ、サトッチはその乳に全部カルシウムを取られてしまっているから、気が短くなってるんじゃあな……」

「ヒョォォォォオ……」

 鋭い風切り音が掃除の行き届いた廊下に響き渡る。

「ああ、わぁっ、スイマセン、痛っ。ああ、ああっ、痛っ!」

 北田は壁に向かって歩かされ、謝りながらもゴツゴツ頭を壁にぶつけさせられている。

「北ちゃんはほんとに学習能力が無いんだからっ!」

 洗脳の【在】を解かれ「ああ、すぐ呼んできますから」と小走りで去っていく北田の背中に里美が投げ掛けた。


───────


「お待たせ致しました。最近雑務が多くて困っているのですが……北田は何か余計な事を申してませんでしたか?」

 小会議室に通されて待っていると、根岸が顔を見せるなり聞いてきた。

「あ、ええ。大きな判子を捺してるだけとか言ってましたね」

 俺はこの時、会食の話をしなかった。北田が言いたかったのは寧ろその件だったろう。しかし、そこに何か秘密めいたものを感じた俺は、敢えてその件については触れなかったのだ。

「北田め、人の苦労も知らないで」

 根岸は普通に振る舞おうとしているが、僅かに安堵の色が見て取れた。

やはり、水面下で重要な何かが蠢(ウゴメ)いているのかも知れない。


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