ロ包 ロ孝
「奇跡的に、無事宿へ帰って来れたな」

「淳が引っ張ってくれたおかげよぉ」

 俺の胸を指で突っつきながらしなだれ掛かる里美。

「当てられちゃうなぁ、俺もエージェントの彼女が欲しいっす!」

「栗原はもっと術を鍛えてからじゃないと駄目ねっ」

 あれから俺達は逃げるように廃ホテルを脱出し、宿迄戻っていた。

「予定全てはこなせなかったが、大体の雰囲気は掴めたからヨシとしないとな」

「実際の現場と見取り図を見比べる事も出来たわ?」

「あとは俺がちゃんと携帯を充電しとけばいいんすね」

「そういう事だ。グッズに不具合は無かったか?」

 9倍速で走った時に暗視スコープの画面がブレたのが気になったが、尋常では無い速度と衝撃だ。あの程度なら許容範囲だろう。

「スコープはばっちりっす。見せ銃は邪魔だったかな」

 『見せ銃』はスーツの右腕へ新たに装着された物で、現場に銃を持って行かない事が度々有った俺達の為に考案された装備だ。

術の度に先端からフラッシュやライトが光るようになっていて、接近戦では棍棒のように使う事も出来る。

「もう賊は現れてしまったんだし、明日突入しよう。作戦は打ち合わせ通りだ」

「でも坂本さん。一応1日、術を修練する日を作った方が良くありませんか?」

 確かに……固い発電機やケーブルに、どこ迄術が通用するか確認しておくべきだな。

「アタシ【陣】は不得意だから、他の人に頼みたいんだけど」

 里美は声質の関係から、俺達より【陣】の切れ味が鈍い。発電機のケーブルを術で切るには少々不安が残る。

「そうだな、練習日として1日取るか。
 発電機破壊に関しては、栗原がケーブルを切るから里美は【南斗】(ナンジュ)で発電機を叩き潰す、という事にしよう」


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