ロ包 ロ孝
 【者】は身体能力が3倍に活性される分、カロリーも3倍消費される。威力の有る術も同様に消耗が激しいのだ。

「いや、よく考えてみたらそんな姿を人目に曝すのもマズイな。ここで筋トレでもしておくか?」

「筋トレって、どんなのやればいいんすか」

「しゃがんだり立ったりの、ヒンズースクワットでもしてろよ」

「はぁい。フゥゥウウ」

 そして栗原はスクワットを始めた。まるで早回しの映像でも見ているようだ。

しかし1分も経たない内に音を上げる。

「はぁ、坂本さん。俺、気持ち悪くなったっす」

 3倍力の【者】を使い、あれだけの速さで上下運動をすれば、激しく頭を振っているのと同じ事になる。なるほど昨日9倍活性で全力疾走した後に襲ってきた吐き気は、そういう事だったのだ。

「そうか。いくら細胞を活性しても、鍛えられない器官はそのままだからな」

「ぅえっ、どういう事すか?」

「脳は筋肉ではないから、強度を上げる事が出来ない。3倍の早さで動けば当然それだけ関節にも負担が掛かるし、目も耳も3倍良くなる訳じゃない。
 つまり『無理は禁物』という事だな」

「おぇっ。坂本さんがやれって言うからやったんすけどっ! うぇっ」

 そう言ったきり、栗原はへなへなとへたり込んでしまった。

「悪い悪い。なにせ巻物にもそこまで親切には書いて無いからな。
 なんにせよ、まだまだ試行錯誤を重ねながら進んで行かざるを得ないのが現状だ、辛抱してくれ」

「はぁい、解ったっス。ぅぇっ」

「じゃあ、外の風に当たるのも兼ねて、そろそろ術の修練へ出掛けたらいいんじゃない?」

「そうだな。そうしようか」

 まだ吐き気の納まらない栗原を連れて、俺達3人は宿を後にした。


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