ロ包 ロ孝
 俺はその『奥義蠢声操躯法』と書いてある巻き物を手に取り、中を見てみる。少し黄ばんだ和紙に、毛筆でびっしりと文が書かれていた。

「爺ちゃん! これは!」

「そうじゃ、これこそ我が高倉家が奥義じゃとも!」

「いや、なんて書いてあるんだ?」

「危うくコケてしまう所じゃったぞ、淳! ……そのままじゃよ。おうぎしゅんせいそうく法じゃ!」

「いや、これ……中に書いてあるのも草書だし、全然読めないよ」

 俺の泣き言を聞いて祖父は、その大きい声を更に張り上げて怒り出した。

「な、なんと! 日本語が読めんとな? 小学校からやり直せっ!」

 肩を怒らせ激昂している祖父と俺の間に、然り気無く里美が割って入る。

「アラお爺さま……草書は勉強しないと読めません。
 それにその分坂本さんは仕事上の能力が秀でてらっしゃいますから、ご安心なさって下さい」

 里美のフォローで事無きを得たが、その彼女が巻き物を広げると、苦もなく読み始めたのである。

「【音力】と違うのは、段階が九つしかない所だけど……始めの声、【臨】(リン)が【第二声】に当たるみたいだから実質変わらないわね」

 ……凄いな、こいつ!

「ああ、あたし大学で文学史を専攻してたから読めるのよ」

 また一本取られた。これじゃあこいつと結婚したとしても尻に敷かれっ放しになるだろう。いっそのこと、主夫を目指して料理学校にでも通うか?

「……ニヤリ」エプロン姿の俺が、頭の中で不気味に微笑んだ。

「おお、立派じゃの! あぁ〜なんと申されたか、あのぉ」

「里美です。ここのような美しい里にはピッタリでしょう? お爺さま」

「ああ申し訳ない、里美さん。淳も里美さんの耳アカでも煎じて飲まんか!」

 それを言うなら爪のあかだろ!

「でもお爺さま、ここには最後の声、【前】(ゼン)が記載されていませんネ」

「書いては有るじゃろ、ホレここに……」

 祖父はわざわざ里美の隣に座り、巻物を指差す。

 あっ! 肘が……胸に食い込んでるじゃないか!


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