ロ包 ロ孝
「ホホッ、やぁわらかいのぉ。お陰で寿命が伸びたわい、ホッホッ」

「やだぁ、お爺さまったら!」

 このセクハラエロじじい! しかしなんで里美もなすがままなんだ! おいっ!

心の中での突っ込みは当然里美に届く筈もなく、何事も無かったかのように話は進んでいく。

「最後の【前】は総てという意味の【全】とも掛かっておる、蠢声操躯法の奥義じゃ。
 それを継ぐべきお前の親父は継承を固辞したがの!
 そう。【前】は一子相伝の秘術じゃ。【音力】が知り得ないと言った意味も解るじゃろ」

 なる程、高倉家の当主が総領息子にのみ直伝する秘術が【前】か。それなら他に漏れる事は無い。

「なぁ爺ちゃん」

 術を習えるようになったのはいいが、俺には大きな不安が有った。

「なんじゃ」

「この秘術を習う俺が弟子なら、俺のお師匠さんは爺ちゃんか?」

「勿論そうじゃ」

 祖父は倒れそうになる程反り返って胸を張る。

「じゃあ駄目だろ!」

「淳、いきなり何を言う!」

 小さい頃からこの祖父の凄い所を見た事が無い俺には、彼が秘術の使い手だなんてとても想像出来なかったのだ。

「だって爺ちゃんはいつも寝てるか喰ってるか、でなきゃ散歩してるかだったろう!」

「なぁにを言っとるか! 何故ワシが100迄生きてこれたと思う。皆この秘術を体得していたお陰じゃ!
 なぁ婆さんや、おいばぁさん!」

 何? 婆ちゃんも生きてるのか?

バタバタしてすっかり忘れていたが、それは何よりだ。祖母は祖父とあまり変わらなかった筈。2人ともが約一世紀を生き抜いて来たのだ。

「はいはい。この人達はどこから来なさった」

「久し振りだねっ! 淳だよ婆ちゃん。元気にしてたの?」

 祖母は耳に手を添えて聞いていたが、ひと呼吸空けて大袈裟に頷くと言った。

「ああそうかい、淳さんて言うのかい。ゆっくりしていきなされ」

 どうやら祖母はすっかり惚けてしまっているようだが、まだまだ元気そうだ。


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