ロ包 ロ孝
「ハァッ、ハァッ……あ、ああ、なんとかな。
 見ただろう里美。垣貫も岩沢さんも、そして千葉もあの龍に殺られたんだ」

『初めて真正面から【前】を見たわ。怖かった……』

 伝達の【闘】に運ばれてくる里美の声はうわずり、少し震えているようだった。

恐らく今回、全破壊の【前】を広域に放っていたら俺の命は無かった。到達距離が短い分【列】を張る暇も無かったし、龍はあちこちから俺を目がけて襲い掛かってきただろう。

細心の注意をして放ったにも関わらずこの結果だ。

雨の中で【前】は使えない。

「まずいぞ? 栗原はこの事を知らないんだ。奴が危ない!」

 俺達に危機を知らせる為、栗原は【前】を放つかも知れない。

「里美はそこから従業員通路の屋根を伝って、宴会場の裏辺りの屋根で先に待機していてくれ。
 【前】が放たれたら、振り戻しの龍を【列】で受け止めるんだ! 俺もすぐそちらに向かう」

『解ったわ! 先に行ってるわね!』

 里美は空中浮遊の【北斗】で跳び去る。


∴◇∴◇∴◇∴


 暫らくトイレという手は使えない。多分「今度は大便だ」と言ってもこいつらは個室迄付いてくるだろう。そうなると余計に下手な動きは出来ないな。

栗原が考えていると、ここのリーダーらしき男が言った。

「本部から質問される前に、こいつから情報を聞き出しておかなければな」

 ということは、自由に声が出せる。……やった! チャンス到来だ。【在】(ザイ)で操るか、【陣】(ジン)や【皆】(カイ)を放って威嚇するか……考えどころだぞ? 俺……。

「猿ぐつわを外してやるんだ」

「はい同志。……おいお前! 何が目的でここに現われたんだ?」

 タオルの結び目がほどかれていく。


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