ロ包 ロ孝
 栗原の口を塞いでいた、ヨダレでべとべとになった猿ぐつわが漸く外された。

「ぉわ、わぁ。
 そ、そんなのお前らに教える訳ないだろっつの!」

 唾液でガビガビになり筋肉の固まった口の周りをほぐしながら、栗原が答える。

「そう言うだろうと思ってたさ。……おい、自白剤を持って来い」

「な、何をする気だ!」

 指示された男は、透明な薬剤の入った注射器を持って来た。賊は栗原に強い幻覚作用が有る麻薬、LSDの一種を注射して自白させるつもりなのだ。

「やめろ! 後悔する事になるぞ?」

「ははは、こんなの別に良く使う手段だよ。おい、空気抜きはしたか?」

「はい同志、やりました。安心しろよ、気持ち良くなってる間に全て終わるから」

 注射器を手にした男は薄笑いを浮かべながら、一歩一歩栗原に近付いてくる。

「お前ら、ぶっ飛ばされたいらしいな」

「はぁーっはっはっは。椅子に縛り付けられたお前に何が出来るっていうんだ? おい、早くやれ」

 ……注射されちまう! 偵察に来た時、緊急事態になったら【前】(ゼン)を放てって坂本さんが言ってたな。

よし、いっちょやるかぁ!……。

「もう後戻りは利かないからな。ヌォォォオオオォォ……」

  バチッ! ビビッ ビシッ!

 気を蓄めている栗原の周りに放電が起こる。

「なんだ? こいつ、何を始めようというんだ?」

「同志! こいつ、身体から火花を出してますっ!」

「コォォオオオォ……」

 そして栗原は肺を空気で満たす為に、息を全力で吸い込んだ。

「! す、吸い込まれるっ! 何かに掴まれ!」

「残念だったな。これで快適なアジトともおサラバだ。ザァッ!」


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