ロ包 ロ孝
 ついに【前】は放たれた。


∴◇∴◇∴◇∴


 【北斗】で跳び上がり、通路の屋根を伝って【者】で宴会場へ急ぐ里美。濡れた屋根に何度も滑りそうになりながらも、漸くそこに辿り着いた。この頃には風も出て、冷たい雨が容赦無く打ち付けている。

「このままじゃ風邪引くわね。少し声を出しとかなきゃ。ムゥゥゥン」

 里美は癒しの【兵】(ピョウ)を発しながらその時に備えていた。

「里美! ああ、間に合ったか」

 うずくまっている里美を見付け、俺が作業員通路の上部に乗った瞬間。

  ズドンッ!

 鈍い重低音と共に宴会場の屋根が吹き飛んだ。ポッカリと屋根に開いた大穴からは、龍のようにうねった【前】が次々と飛び出してくる。

やはり栗原は【前】を絞って放たなかった。四方に分かれた龍は、思い思いの方向へ広がっていく。里美が【列】を張っているが、防ぎきれない可能性も有る。俺は【空陳】(クウチン)を放って【列】から逃れた龍を吹き飛ばそうと身構えた。

  ガゥォォオオオン……

  ゥォオオオン!

  ゥォォオオオンッ……

 里美の張った【列】に3匹の龍が阻まれ、断末魔の叫びと共に消えたが、あと2匹が元の穴へ戻ろうとしている。

「まずいっ! 吹き飛べ! ダァァァアアアアッ!」

 俺の放った【空陳】はその内の1匹を遥か遠く迄吹き飛ばし、掻き消した。

だがまだ1匹残っている!


∴◇∴◇∴◇∴


「うわぁぁっ! なんだこれは!」「何が起こったんだっ!」

 吹き飛ばされて大穴が開いた天井を見上げて、賊共はすっかり動揺している。穴から吹き込んでくる激しい雨風にも何の反応も示さず、ただその場に呆然と立ち尽くしていた。


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