ロ包 ロ孝
「俺、撃たれると思って目をつぶっちゃってたからなぁ」

 怯んだ賊に銃を向けられたのは、正に「不幸中の幸い」だったのだ。

「アタシ、実は一瞬諦めたのよネ。龍が穴に入った時に」

「そんなぁ。冷たいっスよ、里美さん」

 泣きそうな顔をして里美に縋る栗原。

「仕方ないじゃない。貴方の【前】は『免許皆伝者』の放った、超強力な【前】なんですもの」

 確かに。修練中の千葉や岩沢のそれに比べたら、威力の違いは計り知れない。もしも振り戻しの龍が栗原の口に入ったとしたら、彼の身体は粉々に消し飛んで、跡形もなかっただろう。

「まだ洗脳系の術や、裏法の奥義である【玉女】(ぎょくにょ)は試していないが、とかく雨の中では注意が必要だという事だ」

「は……い。でもそんな事が起こってたなんて……。
 あ。そういえば、ガード下で【空陳】を放った時にも同じような事が有りましたよ」

「それは?」

「はい。あの場合は術が全く効きませんでした。
 電車の音に掻き消されたんだと思うんすけど」

 ガード下で列車が通過する時の音は100〜120dbは有る。普通の人が精一杯叫んでもその位だ。

俺達はその上の、そのまた上を行かなければいけない。

「修練を積んで地声の強化をするしか無いな」

「それは栗原が苦しい思いをすればいいとして……。
 聞いて? 突入した時にコイツ、あたしの名前を呼んだのよ?」

「そりゃイカン! 何の為のヘルメットやカムフラージュだか解りゃしないじゃないか!」

「ホント申し訳ないっす。助けに来て貰えたのが嬉しくて……つい。でもずっとひとりきりで寂しかったんですよぉ!」


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