ロ包 ロ孝
 俺は今回の顛末を話し、雨には充分気を付けるように言った。

『はい。教本にもそう書いてありました』

「え? 教本って?」

『蠢声操躯法のマニュアルですよ。
 高倉師範が古文書に足りない部分を加筆して起こされたんですが、ご存知ありませんか?』

「爺さんがですか?」

『文章が若向きなので、てっきり坂本さんも監修に参加されていると思ってました』

 あのジジイめ! 俺達には何も言って無かったぞ? なんでそんな大切な事を教えないんだ!

「ちょっと祖父に電話していいですか?」

 俺は三浦との話もそこそこに、祖父の携帯(緊急連絡用に音力から買って貰ったらしい)へと電話した。彼はノホホンと、何かを食べながら応答する。

『モガモガ……ング。なんじゃ珍しい。どうした、淳』

 全く以て忌々しい。俺達は祖父の所為で危ない目に遭ったというのに!

「どうしたもこうしたも有るかよ! こっちは危うく栗原を失い掛けたんだぞ?」

『待て待て、落ち着いて話さんか。全く意味が解らんではないか』

「これが落ち着いてられるかよ。雨の中で【前】を放つと呼び戻しが起こるなんて全然聞いてないぞ?」

『ほ? 教えてなかったか?』

 まただ。やられた。

「教えて貰ってな・い!」

 祖父は悪びれる事なくこう言う。

『ものが【前】(ゼン)だけに、ゼンゼン忘れていたんじゃな』

「シャレてる場合かよ!」

『巻き物の中には必要最小限の事しか書いてないからの。補うべき事柄も多いんじゃ』

「俺だって危ない所だったんだ! 最初試した時に術を絞って放ったから防ぎ切れたけど」

『おお、それは幸運じゃったな』

 まるで他人事だ。


< 289 / 403 >

この作品をシェア

pagetop