ロ包 ロ孝
『命が有っただけ良かったではないか』

 それはそうだが……。

しかし、いくら言っても意味が無さそうなので、俺は諦める事にした。

「はぁ、他に言い忘れた事は無いのか? 爺ちゃん」

 ため息混じりに尋ねた言葉を受け、祖父は暫らく黙って考えていたが答えはこうだった。

『言い忘れた事が有るかどうかも忘れたわい』

 確かにそれもそうだろう。俺も北田の説明でさえ確実に把握する事が出来ないのだし、これが口伝ゆえの危うさといったところだろうか……。

『淳よ』

「はぁ……、なんだい?」

 気付けば俺は、また溜め息をついていた。

『今音力には巻き物に足りない所を補足した教本が置いてある。機会が有ったら見てみてはどうじゃ?』

「三浦から聞いたよ! だから電話したんじゃないかっ」

 そういう事は真っ先に話せって言ったろう! 俺はまた祖父に、そして今度は懇々(コンコン)と言って聞かせた。

『……ああワシが悪かった。すまんかった、今度キャバクラでも奢るわい』

 本当に反省してるのか? このジジイは!

「それはそうと……爺ちゃんは今、どこに居るんだ?」

 特別修練を付ける為に音力へ来ていた祖父に、丁度いいから飯でも喰おうと言い、夜会う約束をした。

『ああ根岸さん。ええ、淳です……はいどうぞ。……おい淳。根岸さんがお前に話が有るそうじゃ』

「? なんだろう。はい坂本です」

『坂本さん、あれは困るのですが……』

 暗視スコープの件だった。

賊から押収された栗原のそれはまだ少ししか濡れていなかったので問題ないらしいが、俺と里美が装着していた暗視スコープは、本体が携帯で言う水没状態で、もう使い物にならないらしい。


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