ロ包 ロ孝
「三浦さんの尽力で新派の人達との確執にも終止符が打てたし。
 何よりエージェントの安全性が格段に増したわよ。あのフェイスプロテクターのお陰で」

 今のエージェント達は、ほぼ100%の防弾性能を持ったバトルスーツを着用しているのだ。

「彼は音力のヒーローでありメシア(救世主)だ。まだ沢山話したい事が有ったのに……。
 生きていて欲しかった」

「そうね……」

「そうっすね」

「なんだ栗原、まだ居たのか? 油売ってないで仕事に戻れ! 始末書、始末書!」

「また忘れられてたっ! 俺って存在感無いんすねぇ〜」

 勿論彼を忘れていた訳ではない、いつもの冗談だ。肩を落としてとぼとぼと部屋を後にしようとしていた栗原の首根っ子を捕まえ、

「残業手伝ってやるからそんなにしょげるな」

 と言ってやる。それでも精彩を欠いている彼に「残業が終わったら久々に『ヴァシーラ』へでも行こうじゃないか」と囁いてやると、

「ホントっすか? 随分ご無沙汰ですもんね。店長元気にしてるかなぁ。
 久し振りだから茄子味噌炒め、喰おうかな」

 コロッと態度を変えてメニューの事を考えている。この切り替えの早さがこいつの強味だ。

俺も栗原のように考えられていたら、ここでの居心地がもっと良かっただろう。

この3年、いや最初から数えての5年間というものは、音力に心を許す事が出来ずにいつも裏を探るような真似ばかりをしていたからだ。渡辺達にも逐一オペレーションの一部始終を報告させていたが、俺が考えるような事は何ひとつ行われていなかった。


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