ロ包 ロ孝
 それならいっそ、些末な事には囚われずに、このかけがえのない生活を守るべきではないのか……。

「ねぇ、どうしたのよぉ」

  ヴィーィン ヴィーィン

 その時、俺の携帯が震えた。

「淳。栗原からよ?」

 携帯を寄越しながらサブディスプレイに映った名前を見て里美が言う。

「……ああ、俺だ。もう着いたのか?」

『何言ってんすかっ! それでどうなったんすか』

 あいつ、俺が出たら切るように言ったのに……それに声がでか過ぎる。

俺は里美に気付かれないよう、受話音量を注意深く下げた。

「なんだまた達っつぁんか? 今度は一体何をやらかしたんだ!」

『まだ話して無かったんすか。俺も辛いっすけど、坂本さんも頑張って下さい』

 俺の語調から成り行きを察した栗原は電話を切った。

「ああ、早く行ってやれ。あまり頭ごなしに叱るなよ? じゃあな」

 そうだ。もうこれは既に、俺と里美2人だけの問題では無い。

「また達っつぁんなの? 栗原も面倒見がいいのねぇ」

 いつまでも結論を先伸ばしにした所で、何も生まれやしない。

「……突然だが里美。俺達3人で来ると決まってこの部屋だよな。なんでだ?」

 意を決して俺は話を切り出した。

「うん? いきなりどうしたの? この部屋は常連客用だからでしょ?」

 ごく普通に返答する里美に、俺はもう一段掘り下げて聞いた。

「常連は俺達ばかりじゃ無いのに、俺達が通ってた頃、常にこの部屋は空いていたよな」

「た、たまたまよ。それにあたしが予約とかしていたからじゃない」


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