ロ包 ロ孝
 明らかに動揺している里美は、俺の目を見て話さなくなった。

「いや、あの頃この部屋は、いつ来てもタバコ臭くなかったんだよ。でも今日はどうだ? この酷い臭いは!」

「そ、そんなのここが古くなったからに決まってるじゃない」

 表情が固くなり、作り笑顔で受け答えをする里美が哀れで、俺は正視していられなかった。

「里美、それは違うな。俺達がいつ来てもいいように空けてあったんだ。
 それに里美は、なんで俺の言う事をはしから否定するんだ? お前に取ってこの店は何なんだ?」

「何なんだって、淳こそなんなのよ! 変な顔しておかしな事ばっかり言って! まさかあたしの事も疑い出したの?」

「ああそうだ。残念だがな」

「ばっかじゃないの?」

 そう言って、拗ねたように向けられた里美の背中に投げ掛ける。

「徳田はとっくの昔にここの店長ではなくなっている。正確には2年前だ」

 もう止せ里美。全て解ってしまったんだよ。

「あはは。徳田さんならさっき受付に居たじゃない。アレは幽霊?」

 いつもの微笑みとは明らかに違う、ひきつった笑顔で里美が笑っている。

「ああそうかもな。徳田という人物がこの世に実在するのかも怪しい所だ。
 里美……黙っていて悪かったが、俺と栗原はつい先日ここに来てるんだよ」

「えっ、ええっ?」

 里美はそう言うと、凍りついたように動かなくなった。

「ここの店長は後藤という人だ。徳田は非常勤だと聞いた。
 店の内規で取り決めしてあったんだろ? お前が連絡したら徳田が店長に代わるようにと」


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