ロ包 ロ孝
 と同時に、蠢声操躯法の巻物に書かれていない【前】の修練法と発声を探る手掛かりとして、また有能な術の使い手になり得る手駒として俺の存在を欲した里美は、自ら色仕掛けで手の内に引き入れようと試みた。

思惑通りにベッドを共にしたものの、普通の男に無い魅力を俺に感じた里美は、自分の手駒としてではなく、共に音力を作り上げるパートナーとして俺を選んだのだという。

「経過としてはこんな所ね」

 まだ隠し事をするつもりか! 核心部分は何ひとつ語られていない。

 身を乗り出しかけた俺を制するように里美は続けた。

「で、これからが本題よ?」

「あ、ああ」

 俺はコップに入ったコーラを全て飲み干すと、ソファーに座り直した。

「今音力は警察の補助的機関として確立されているけど……。
 その政府の秘密機関が本当に欲する所、真の目的は『日本の脅威となる敵国指導者の排除』なのよ」

 俺がおぼろげに危惧していた事は、正に的を射ていたのだ。

「やはりな。俺が思っていた通りだったか」

「そう、その機関は彼の国の最高指導者、李 万歳(イ・マンセー)を亡き者にしようとしているの」

「里美。俺が蠢声操躯法を使うのは、犯罪を無くし、安心して暮らせる平和な日本を作る為だ。
 何を考えているか解らない国家元首とはいえ、その命を奪う権利は何人にもないし、その為に術を使うつもりは毛頭無い!」

 俺が音力を疑いつつもその活動に力を尽くして来たのは、犯罪撲滅に貢献しているという実感からだ。


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