ロ包 ロ孝
「あーあ。これじゃ余計に喰えないな」

 話を聞いている内に怒気が失せた俺はそんな台詞が言える程、極めて普通の精神状態に戻っていた。

平和な日本を作っても、国そのものが無くなってしまったら元も子もないのは確かだ。それに、私利私欲で彼の国の元首を亡き者にしようとは、誰も思わないだろう。俺達は国益の為という正当性を持って任務に当たる事が出来る訳だ。

「うん。気持ちの整理が付いた。
 でも人間関係の話は、余計に悪感情を招くだけだから聞かないでおくよ。
 それから、お前はこれ迄通りでいればいいさ。警察に無くてはならなくなった音力を、今更崩壊させる訳にもいかないし。
 それと、もう盗聴や監視は要らない。俺は全面的に協力すると決めたから!」

 俺の答えは決った。

「淳……。あたしは淳の奥さんで居てもいいの?」

 耳をそばだてなければ聞こえない程の小さな声で里美が言う。

「当たり前だ。俺は里美無しでは生きられない。
 そうだ。今夜は丁度頃合いだろ?
 それにええっと……」

 俺は携帯のスケジュール画面を確認した。

「頃合い?」

 喧嘩をした訳ではないが、やはり仲直りはスキンシップと相場が決まっている。

「今日は初めて一緒に美術館へ行った記念日だ。この日観たのは『受胎告知』だったよな。
 縁起もいいし、子作りに励もう!」

「うん、うん。ヒック……ぅええ゙〜ん!」

 抱き付いてきた里美の頭を撫でてやり、子供をあやすように背中を優しく叩く。

それから里美が泣き止む迄の間、俺は襲い来る尿意と果敢に闘わねばならなかった。


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