ロ包 ロ孝
 思えば、彼らを面接したのもここだった。そしてまたここから、正真正銘皆伝者としての修練へ踏み出すのだ。

「さぁ、実験台になりたい者はいないか?」

 みんなが尻込みして譲り合っている中、高々と手が挙がった。

「俺がやります」

「岡崎君、助かるよ。
 では各法を駆け足で説明していくから、質問は後でな」

 緊張した面持ちでみんなが見守る中、俺は術の説明に入った。

「さあ岡崎君、ここに座ってくれるか」

 椅子に座る岡崎も、志願した割にはガチガチに強張った表情だ。

「表に書いてある上から順番に説明するからな。
 表法では只の声でしかなかった【臨】(リン)は裏法の【青龍】(セイリュウ)になると、むぅぅうう〜ん」

「ん? なんですか? 俺は何をしてるんだっけ?」

 岡崎はうろうろ動き回り、ついには部屋を出て行こうとする。

【青龍】の錯乱効果に惑わされ、まともな思考が出来なかったのである。

「このように何が何だか解らなくなってしまう。これが【青龍】の効果『錯乱』だ。
 そして【白虎】(ビャッコ)。【青龍】より全身に意識を配るのは【兵】(ピョウ)と同じだな。
 むぅぅうううん」

 俺が【白虎】を放つと、岡崎はその場にへなへなと座り込む。

「彼は力が抜けて立っていられなくなった。これが【白虎】の『脱力』だ。岡崎君、そこでちょっと待っててくれな?
 次の【朱雀】(スザク)は実際体験しないと解り辛いんだが……。小さい音を増幅する術なんだ」

「キィィィィィ」

 俺は朱雀を使い聞き耳を立てる。

「……んか、……れ、実験動物みたいだ。俺はマウス並みの哀れな男だよ」

 周波数を合わせると岡崎の呟きが聞こえてきた。実験台に自ら名乗り出たものの、裏法に翻弄される自分がやるせなくなったんだろう。


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