ロ包 ロ孝
「坂本さんっ! どういう事っすかっ! なんで俺だけ留守番なんすかっ!」

 オペレーションの辞令を受けて、早速栗原が飛んできた。俺はと言えば、里美の過去やこれ迄の経緯を全て受け入れた事で、何故だかとても静かな気持ちになっていた。

「おお、栗原か。茶でも飲むか?」

「なにをのほほ〜んとしちゃってんすかっ! 俺、文句を言いに来たんすよ?」

 滅多に怒りを表面に出さない彼が、明らかな仏頂面を俺に向けている。

「まぁまぁ、ほらそんな怖い顔してないで座れ。今回の案件の内容は聞いたか?」

 オペレーションの真意を知っているエージェントは、俺と里美以外にはまだ数人しか居ない。

「いいえ、ただ俺は留守番としか聞いてないっス」

 里美1人を危険な目に遇わせる訳にはいかないし、かといって3人共日本を離れてしまっては音力が機能しなくなる。

栗原が残って采配を振るうというのは警察にとっても、延いては日本の平和にとっても最良の選択なのだ。

「暗殺だよ暗殺、栗原はそんな事に手を染めるべきじゃない」

「ええっ? それって坂本さんが音力を疑ってた頃の話じゃないすか。まさか本当に……」

 俺が目を見て頷くと、彼は動揺の色をあらわにする。

「あの時音力のシンクタンクから栗原が聞いた話はな、核心部分を含んでいなかったんだ。
 音力が蠢声操躯法を必要としていたのはまさに、アサシン(暗殺者)を作りたいが為だったんだよ」

 彼はこれからも警察と協力して法を守っていく立場だ。人を殺める任務など、断じて遂行させてはいけないのだ。


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