ロ包 ロ孝
「悪いな達っつぁん。それがズバリ、その金銭問題なんだよ」

 そう渡辺に軽口を言った事で、俺の心は少し軽くなった。

「お力添え出来ずに無念でござるぅ」

 口をへの字に曲げて、歌舞伎役者よろしく見栄を切りながら去っていく。

 そうだ。後は関達に任せる他無いんだよな。

「ありがとな、達っつぁん」

 元気付けてくれた渡辺の背中に呟いて、俺は照明のブースに続く梯子を登った。


───────


 それから3度のリハーサルで細かいダメを修正した後、俺達は遅い昼食を摂っていた。

「腹が減ってたからやたらと旨かったですね。でも、なんだか慣れない船旅で疲れてしまったようなので、我々は仮眠を取って来ます」

 早々に食事を終え、関がやって来て言った。窓の外は黄昏時を過ぎ、夜のとばりが降り始めている。

「え? ……そうですか、解りました」

 彼らが夕食後に行動を開始すると思っていた俺は少々面喰らったが、早い決行に越した事はない。その後の作戦に余裕が出来るからだ。

「しっかり休んで、鋭気を養って下さい」

 親指を立てて武運を祈る俺に、関はまぶたをぐっと閉じ、頷いて答えると部屋を出て行った。


∴◇∴◇∴◇∴


「我々の宿舎の回りは警戒が手薄なようだ。今周囲をひと周りしてみたが見張りの姿は無かった」

 舞台衣裳に見せかけて運び入れた黒装束を着込み、関達は出発の準備を整えていた。

「でも関さん。今も宮殿の状況が変わっていなかったらどうします? 無駄足を踏む事になるかも知れませんよ?」

 関のチームメンバーである田中がそうこぼしている。

「それは承知の上だ。寧ろ普通に考えれば、状況は夜の方が厳しいだろう」

 田中は明らかに当惑した目を関に向けて言う。

「そしたら何故……」


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