ロ包 ロ孝
「田中、これは普通だったらの話だ。考えてみろ、我々は忍びだぞ?
お前は背も小さければ肝もちっちゃいんだな!」

 関が掛けた発破も彼には効を成さない。小刻みに震える姿はまるで捨てられた子犬宛(サナガ)らだ。

「でも……だって正直恐いですよ!
 バトルスーツじゃないんだし、失敗したら怪我じゃ済まないんですよ?」

 田中は臆病風に吹かれているようだ。血色がなく、唇まで紫色になっている。

「しっかりしろ、田中! あのキツかった日々を思い出せ。
 そんな事では我々の為に亡くなった三浦さんにも顔向け出来んぞ!」

「……三浦さん……。すいませんでした。行けます! 行きます!」

 その名前を聞くと彼は、雷に撃たれたかのように立ち上がる。そしてその瞳にみるみる闘志が宿っていった。

「秋山も、太田も行けるな」

「勿論ですよ、関さん!」

 チーム全員に力がみなぎるのを確認すると、関は目を閉じ、合掌して言った。

「三浦さん。見守っていて下さい」

 他のメンバーも関に倣って黙祷を捧げる。

「よし、出発だ」

「はいっ」


∴◇∴◇∴◇∴


 夕闇に紛れて宮殿に到着したが、やはり厳戒態勢は解かれていなかった。

「やっぱり状況は変わってなかったですね、余計に悪くなってそうです」

 太田が木に登り、宮殿内を窺いながらそう言う。

「当然と言えば当然だ。夜の方が侵入者を発見しづらいからな。
 しかし我々は『忍』だ。夜は我々に味方してくれる。状況は悪くなっているんじゃない。限りなく有利な展開だぞ?」

「そうですね。夜は俺達忍の独壇場ですよね」

 田中も自らを勇気付けるかのように呟く。

「そうだよ田中。さぁ、いよいよ正念場だ。心の準備は出来ているな」

 関は背中の刀を抜き、刀身を確認する。


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