ロ包 ロ孝
「坂本女史!」「里美さん!」

 何年も同胞として苦楽を共にしてきた人物が、今は敵として自分に刄(ヤイバ)を向けている。普段は冷静沈着を誇る関の心が今、大きく揺れていた。

「まさか貴女が二重スパイだったなんて……それに今のは何だ、貴女が【列】を張っていたのか?」

 里美はさも面白そうに高笑いすると、誇らしげに胸を張って言う。

「はぁっはははは。そんな訳無いでしょ? 関さん。
 音波の特性を使ったのよ。貴方達の声と逆位相の音をぶつけたの。
 貴方達の放った音波はあたし達のそれと打ち消し合って無効化されたのよ。
 しかも人間と違って息継ぎもしない、鉄璧の護りだわ? 可哀想だけどこれ迄ね。あははは」

 里美達は空調ダクト等の作動音を軽減するテクノロジーを応用したのだ。

「そ、そんな……貴女はひとを裏切って平気なのか? 人間として、それでいいのかっ!」

「関さん、いくら言っても無駄ですよ」

「坂本さんっ!……貴方は平気なんですかっ?」

 彼らにやっと追い付いた俺は、関の前に出て言った。

「平気なわけ無いじゃないですか!
 しかし里美はマインドコントロール下に置かれている。良心に訴え掛けても効果は無いんです」

「淳……」

 でも俺に対する気持ちだけはコントロールされていない。俺が居れば砲撃はして来ない筈だ。


∴◇∴◇∴◇∴


 一方山本達と合流した渡辺は、海を目指し民家も何もない荒れ果てた荒野をひた走っていた。

「しかし良かった。自分達が道を間違えなかったら、一生会えない所でしたよね」

 山本達は計画に無い森で渡辺達を待っていた。渡辺達も偶然同じ間違いをして、結果双方は巡り会えたのだ。誤りに気付いた彼らが進路を相談している所を、山本達が発見したのである。


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