ロ包 ロ孝
「コォォォォォオ」

 周りの木々がみな、息を吸い込む渡辺達に向かってたなびき、傾(カシ)いでいる。黒雲は大きなドーナツ状になり、細かく放電を繰り返しながらゆっくりと回転を始める。

  ピカッ ドドォォオオオオゥンンン

 遂には渡辺達を掠めるように落雷が一閃した。

やおら里美は手を振って自軍に合図すると、戦車の中へと入って行く。

「なんだ? あれは」

 その合図と共に全車両からアンテナを出した戦車隊は、最初にそれを壊された車両を扇状に囲って隊列を組む。

渡辺達はあのアンテナが術を消す兵器だという事をまだ知らない。

俺は3倍【前】の効果が最大になるように、こう指示した。

「達っつぁん! 拡散して【前】を放て!」

 いや待て。まだ里美を救う手立てが無くなった訳じゃない。マインドコントロールも解ける兆候を見せていたのではなかったか。

もうちょっと、あとほんの少しだけでも彼女の心を揺さぶる事が出来れば、元の里美に戻ってくれるのではないか?

「はい解りました、坂本さん! 遠藤、岡崎、いいな!」

 彼らは光の繭に包まれながら互いに意思を確認し合う。

しかし、ここで里美を殺したら、俺は最愛の妻とまだ見ぬ子の両方を失ってしまう。

時間が欲しい。僅かだけでいい、俺と里美に猶予をくれ!

「ま、ちょっと待っ……」

 俺がそう言い掛かった時、術は放たれた。

「いくぞっ! ザァァァァァアッ!」

  ガァァァァア ガォォァァアッ ガァァアア ギャォォオオ ギャァアアアォ

 渡辺達の放った3倍【前】の龍達は、何十匹もが羽を拡げた蝶のようになって飛び出した。バチバチと音を立て、光る放電をまといながらゆっくりとうねりだす。

普通の【前】に比べてかなり太く、長くなったその体躯を俺達へ見せ付けるように絡み合う龍達は、まるで意思を持っているかのようだ。


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