ロ包 ロ孝
 俺は形振(ナリフ)り構わず里美の居た場所へ向かって走り出していた。

「坂本さん。ま、待って下さい」

 関が俺を止めようとしていたが、それを無視して走り続けた。すると……。

「ヮァァァァアア」

 渡辺達が呼び寄せた黒雲と爆発の煙が晴れた後に、瓦礫の中で【列】に包まれた里美が立っていた。

「ああ。……良かった。生きていた……」

 その姿を見て思わず安堵してしまう、そんな自分を責める間もなく里美は喚きだした。

「あたしは死なないあたしは死なない。あたしは死ねない死ねない死ねない。ダッ、ダッ、ダッ!」

 呪文のように繰り返しながら【空陳】で瓦礫を跳ねのけている。

「里美! 考え直せ! お前達に我々は倒せない。
 日本に帰って罪を償うんだ。マインドコントロールだって解く方法がきっと有る!
 そして3人で暮らそう! お腹の中の子供を2人で立派に育てよう!」

 俺の言葉を聞いた里美の頬には大粒の涙が伝っている。次々に溢れるそれは、彼女が着ている敵国の軍服を静かに濡らしていく。

しかしその顔に湛えた表情は、天界の神々へ闘いを挑む阿修羅のように、怒気に満ち満ちた物だった。

「あたしは金 智賢! お前は何度言ったら解るのだ。『淳、愛してる。貴方の腕の中が恋しいの』ああ、うるさい! 邪魔をするなっ!」

「なんだ?」

 里美の様子がおかしい。自分で自分を叱り飛ばしている。

「お前らはもう袋のネズミだ。我々の軍備が戦車だけではないのは知っているだろう?
『淳と見詰め合いたい、抱き締めて貰いたい。あたしは貴方じゃなくちゃ駄目なの』
 何を言う! 引っ込んでいろ。軍人に色恋など不要だ!」

 里美の中で2つの人格がせめぎ合いだした。爆発のショックも作用して、マインドコントロールの呪縛が崩壊を始めているのだ。


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