ロ包 ロ孝
『この子の為にもあたしが、里美が無くなる訳にはいかない。淳! 貴方も殺させやしないわ!』

 女性としての力と、更に加わった『母』としてのパワーで、里美はマインドコントロールの魔の手から逃げ仰せたのだ。

そして彼女は肺一杯に空気を取り込んでいく。

「コォォォォオ」

 彼女が息を吸う合間に【闘】で関にも手短かに説明し、先に避難するよう促した。人員が多いとそれだけ余計な隙が生まれてしまうからだ。

『解りました、坂本さん。幸運を!』

 関は走破術と【者】を併用し、目にも止まらぬスピードで走り去った。

「行くわよ? ザァァァアアッ!」

 里美は俺の頭越しに、総書記の乗ったヘリ目掛けて【前】を放った。

  ガァァァァアアアッ!

 いつの間にか晴れ渡った青空を、透明の龍が駆け昇っていく。

  ババババラバラバララァ……

 その進む先には、回避行動を取るべくローター角を最大にしたヘリが居る。

  ドカァァン バラバラァッ ヒュンッ ヒュンッ  ヒュンッ

 時既に遅し。里美から放たれた【前】は一直線に総書記のヘリを貫き、それは呆気なく火の玉となって落下していく。

一本だけになってしまったローターが空気を切り裂く音が虚しく響いていたが、

  ヒュンッ ヒュンッ ドスゥウン

 やがて鈍い音を立て、地面に墜落した。

  ッボンッ! ボォッ、ゴォォォォォオ…… 

 ヘリは一度小爆発をした後、一気に激しく燃え上がった。あの様子では全員助からないだろう。

「里美! 早くしろ、急げ! フゥゥゥウウウ」

 俺は力の限り【玄武】を送って里美の素早さを増す。

「じゅぅぅんっ!」

  パンッ パンパンッ

「ああっ!」

 その瞬間。時の流れがゆっくりと、スローモーションを見ているかのように動き出した。


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